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水戸地方裁判所 昭和43年(む)123号 決定

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔決定理由〕よつて按ずるに、板子記一、八木下芳郎、関口益次郎及び杉本義明は原裁判所の昭和四二年九月二七日の各公判準備期日においてまた簗田俊道、原田利助、田村鶴吉、長塚寛爾、松下治四郎及び豊田睦裕は同じく同年一〇月五日の各公判準備期日において、いずれも証人として尋問を受け、その各証人尋問調書は、原裁判所の第四回公判期日(同年一一月二九日)において証拠調がなされたところ、検察官は、同公判期日において右証人等の公判準備期日においてなした各供述はそれぞれ前に検察官の面前においてなした供述と相反するか若しくは実質的に異なる旨主張し、刑事訴訟法第三二一条第一項第二号後段の規定により板子記一(二通)、八木下芳郎(三通)、関口益次郎(二通)、杉本義明(三通)、簗田俊道(三通)、原田利助(二通)、田村鶴吉(二通)、長塚寛爾(二通、松下治四郎及び豊田睦裕(二通但し原本)の検察官に対する各供述調書謄本(以下各供述調書と称する)の証拠調請求をなしたこと、そこで原裁判所は、弁護人にその意見を求めたところ、右各供述調書は特信性ないし任意性がない旨主張したので、その取調当時の状況を明らかにする必要があると認め、職権によりこれが取り調べに立会つた検察事務官秋葉政則及び谷田弘太郎をいずれも証人として取り調べる旨の決定をし、第五回公判期日(同年一二月一六日)に右証人等の証拠調をなしたこと、しかるところ、弁護人は同公判期日に更にその取り調べをした検察官会沢時雄を証人として取り調べられたい旨の証拠調請求をしたので、検察官はその意見を求めたうえ、これを取り調べる旨の決定をし、第六回公判期日(同四三年二月二九日)において右証人の証拠調をなした後、第七回公判期日(同年四月一五日)において検察官の証拠調請求にかかる前記各供述調書の証拠調をしようとしたところ、被告人稲川の主任弁護人並びに被告人小柳敏一及び同小柳桂子の弁護人石川浩三、被告人染谷の弁護人岩淵収から、右各供述調書はいずれも特信性ないし任意性を欠くものであることを理由として異議申立がなされたが、原裁判所裁判官黒羽善四郎は、右異議申立をいずれも理由がないとして棄却する旨の決定をしたうえ、これらをすべて刑事訴訟法第三二一条第一項第二号後段に該当する書面として取調べる旨の決定をし、即日これを取り調べたところ、被告人稲川の主任弁譲人並びに同小柳敏一及び同小柳桂子の弁護人石川浩三、被告人染谷の弁護人岩淵収等は特信性ないし任意性のない前記各供述調書を証拠能力ありとしてその取り調べをしたことは裁判官の裁量権を逸脱した職権濫用の違法な処分であることを理由に、被告人等のため不公平な裁判をする虞があるとして同裁判官を忌避する申立をなしたところ、同裁判官において右忌避の申立は訴訟を遅延させる目的のみでなされたことが明らかであるとして、刑事訴訟法第二四条により、いずれもこれを却下する決定をするに至つた経緯が認められる。

二、そこで、先づ被告人栗原の弁護人横山昭の本件請求について考えてみるに、同被告人及びその弁護人等はもともと本件において同裁判官黒羽善四郎を忌避する申立をしたとの点は記録上認められず、従つて同被告人の関係においては、もとより刑事訴訟法第二四条による却下決定もなされていないわけであるから、かかる決定があつたことを前提として同法第四二九条により右忌避申立却下決定の取り消しを求める本件請求は、それ自体その手続の規定に違反する不適法なものといわなければならない。

次に被告人小柳敏一の弁護人石川浩三の本件請求について考えてみるに、前記各供述調書は、検察官において昭和四二年二月一〇日付起訴にかかる被告人稲川、同染谷に対する各公職選挙法違反の公訴事実及び同年四月二八日付起訴にかかる被告人稲川、同栗原、同小柳桂子外一名に対する各公職選挙法違反の公訴事実立証のため刑事訴訟法第三二一条第一項第二号後段の規定により証拠調請求をなしたものであつて、被告人小柳敏一外一名に対する同月二八日付起訴状記載の公職選挙法違反の公訴事実立証のためにこれが証拠調請求がなされたものでないことが記録上明らかであり、そして右各供述調書につき証拠決定をなし、これが取り調べがなされたのは、被告人小柳敏一に対する同月二八日付起訴状記載の右公訴事実関係を除く検察官請求にかかる被告人稲川、同染谷、同栗原及び同小柳桂子等に対する前記各公訴事実関係に限られているわけであるから、たとえ本件において以上の事件の併合審理がなされているとしても、これをもつて直ちに同裁判官が被告人小柳敏一に対し不公平な裁判をする虞があるということができないことは明らかであり、従つて同被告人の弁護人石川浩三が他に特段の事情もないのに同裁判官が不公平な裁判をする虞があるとしてなした本件忌避申立は、結局忌避権を濫用したものというべく、失当といわなければならない。もつとも、同弁護人は、同裁判官の訴訟指揮が予断と偏見をもつてなされていた旨主張するが、これを認めるに足る疎明は全く存しない。

かようなわけで同裁判官が右忌避申立を訴訟を遅延させる目的でなされたことが明らかであるとして、同法第二四条によりこれを却下した措置は相当である。

更に進んで、被告人稲川、同染谷、同小柳桂子の弁護人等の本件各請求について考えてみるに、裁判官を忌避する制度は、もともと具体的事件との関係においてその事件を担当する裁判官に対する特定人の不信頼の念を除去するため、当該裁判官を将来に向つてその担当する事件から除外することを目的として設けられたものであるが、証拠採否の決定等訴訟指揮上の裁量行為は事実審裁判所の専権に属する事柄であるから、これに不満がある場合は証拠調に関する異議申立等の手続によつてこれが救済を求めることができるし、そしてこれが同一審級の訴訟手続内で救済されない場合は、結局終局裁判に対する上訴手続によるほかその不服申立の方法が存しないことに鑑みれば、前記各供述調書につき仮りに弁護人等が主張するように、特信性ないし任意性がないものを証拠能力ありとしてその取調決定をし、その取り調べをしたとしても、このことに関する不満を直ちに忌避の手段に訴えることは許されないというべきである。しかして本件記録によれば、前記各供述調書について原裁判所裁判官黒羽善四郎は、昭和四二年九月二七日及び同年一〇月五日の公判準備期日において、その各供述者を証人として取り調べ、被告人、弁護人等にも反対尋問の機会を与えた後、同年一一月二九日の公判期日において異議なく右各証人尋問調書の取り調べをなし、次いで検察官は前段説示のとおり前記各供述調書を同法第三二一条第一項第二号後段の書面として証拠調の請求をなし、同裁判官においてこれが証拠調の決定をなしたうえ、その証拠調を施行したのであるが、該調書の内容は理路整然として何らの不自然さを感じさせないものであり、しかもこれより先同裁判官は、検察官の請求により右各供述調書の特信性ないし任意性の存否につき調査するため、特に証人として秋葉政則、谷田弘太郎、会沢時雄の各尋問をなしたうえ、右各供述及び関係各証拠を勘案して右各供述調書の特信性を肯定したものと認められるのみならず、前顕各証拠に照らして優にこれを肯認し得るところである。弁護人等は、前記各供述調書の供述人の証人尋問調書の記載に証人秋葉政則、同谷田弘太郎、同会沢時雄の各供述を合わせ考えて前記各供述調書の特信性が認められないと主張するが、同尋問調書の記載を全面的に措信することができないことは関係証拠に照らして明らかであり、また、証人秋葉政則、同会沢時雄の各供述を仔細に検討するも、所論のように片言隻語を捉えて直ちに右各供述調書の特信性を否定する根拠となすに足りない。なお、弁護人等は、同裁判官は、予め右各供述調書の内容に目を通し、該調書が本件公訴事実認定に決定的役割を果すものであることを充分知悉していたものであるとし、しかも同裁判官の訴訟指揮が予断と偏見を持つてなされていた旨縷々主張するけれども、これを認めしめるに足る疎明は全く存しない。

以上の説示によつて明らかなように同裁判官が昭和四三年四月一五日の公判期日において所論各供述調書を刑事訴訟法第三二一条第一項第二号後段の書面に該当するものとして証拠調の決定をなし、これが証拠調をなしたが、該訴訟手続には何等違法と目すべき点がないのに、殊更かかる点を捉えて同裁判官が被告人等のために不公平な裁判をする虞があるとしてなした本件忌避申立は、結局いずれも忌避権の濫用ということにならざるをえないから、本件訴訟の経過等も勘案のうえ、同裁判官が、右各申立を訴訟を遅延させる目的のみでなされたことが明らかであるとして、同法第二四条によりこれを却下した措置は相当であるといわざるをえない。(高野平八 長久保武 竹田穣)

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